小説はエンタメ中心に楽しんでいて、大衆文学を対象にしている吉川英治文学賞は趣味があう作品が多い。
第41回吉川英治文学新人賞に加藤シゲアキの「オルタネート」が、武田綾乃の「愛されてなくても別に」と同時に選出された。
加藤シゲアキ氏はジャニーズ事務所に所属し、NEWSとして活躍する現役男性アイドルだ。
2011年、ピンクとグレーで文壇デビュー。人気アイドルが書く本格的な文学作品として話題を集めた。
当時も気にはなっていたいが、その後の作品も含めて「しょせんイロモノ」という想いが強く手がでなかった。
しかし、吉川英治文学新人賞を受賞したならば話は別だ。
新人賞と言いつつも、今後に期待というよりは、人気作家になった称号とも言えるこの賞。
過去の受賞者はことごとく人気作家ばかりで、個人的に好きな恩田陸、柳広司、和田竜も名を連ねている。
元々、気になっていた作家であり、吉川英治文学新人賞を受賞したのであればさすがに読まず嫌いなままではいられない。
本棚を処分したこともあり、出来る限り電子書籍に移行していきたいのだが、普段使っているストアでは取り扱いがなく、
図書館は予約が130以上あり、いつ読めるのかは分からない。
このタイミングを逃すと、読まず嫌いなが継続しそうなので、数年ぶりにハードカバーの小説を本屋さんで購入した。
【「以下、作品のネタバレを含みます】
読み終わった最初の感想は「面白いけどもったいないな」だった。
高校生の瑞々しさとその裏側の暗く重苦しい悩み葛藤が読みやすい文体で描かれており、一気に結末まで読んでしまった。
3人の高校生(うち一人は中退している)それぞれの視点で、それぞれの物語が進み、最後は文化祭で収束する群像劇。
文化祭で3つの物語が交差する様子が上手くまとっており、どうなるんだろう?というワクワクドキドキを楽しむことができると思う。
ただタイトルにもなっている「高校生限定マッチングアプリ・オルタネート」の存在感が薄いと感じた。
入学して即全員が使っているわけでもなさそうなのに、オルタネートがないと連絡が取りづらいするのは違和感があるし、
ショートメールや電話でコミュニケーションを取ったり、アプリや電話で連絡がつかなければ学校まで会いに行ったり、このアプリがなくても物語が成立しそうなのが気になった。
作中では「オルタネートを使わずにわざわざ」という意味があるかもしれないが、それに該当するのは高校を中退してアプリが使えない尚志ぐらいだろうか。
「オルタネートが無ければ生活できない」もしくは「インストールが義務」ぐらいの設定があっても良かったかもしれない。
希望的な感想としてはアプリの運営会社や、アプリ制作者、教師、両親がアプリに対してどう考えているのかを描いて欲しかった。
高校生だけではなく、社会全体へのアプリの影響を物語に落とし込んでくれれば、印象がガラッと変わるのではないかと感じた。
印象の話で言えば、3人の物語が平行して進む群像劇ではなく、それぞれを独立させてじっくりと掘り下げる3部作だとしたら、どういう読み応えになったのかも気になった。
と思いつつも、あまり深堀せずに、このくらいあっさりしていた方が読了後に「あ~、面白かった」と素直に思えるので、ボクが「もったいない」と感じた内容は蛇足になりかねない。
現役の中高生がどう感じるのか、いろいろな読書サイトを巡って確認してみたいと思う。
と、思っていたら直木賞の最終選考まで残り、次点評価を受けていることを知った。
直木賞も大衆文学を対象としているものの、それは「芥川賞に比べて」と注釈が入るものとだと考えていた。
個人的には大衆文学とは先ほども言った通り「あ~、面白かった」で本を閉じられる作品だと思っている。
作者のメッセージだの、文章の技法・技術だの、社会情勢だの、そんなものは吹っ飛ばして「面白いか、面白くないか」で評価される分野だと思っている。
吉川英治文学賞はそういった傾向の作品が多く、「文学」よりも「エンタメ」が似合うと感じていた。
純文学とは言わずとも直木賞は少なからず上記の内容が考慮されていると感じていたので、いろいろとツッコミどころのあるオルタネートの次点評価にはひどく驚いた。
文学賞についての認識を改めないといけないかもしれない。
まぁ、偉そうなことを書いてきたが、結局はボクには見る目がないということだ。
罪滅ぼしではないが、加藤シゲアキの過去作も読んでみようと思う。